IPv4だけが繋がらない現象とは
インターネットに接続しているはずなのに、一部のWebサイトやサービスにアクセスできないというトラブルに遭遇したことはないでしょうか。検索エンジンや動画サイトは問題なく表示されるのに、特定の通販サイトや業務システムだけが開けない場合、その原因はIPv4だけが繋がっていない状態である可能性があります。
近年はIPv6対応のサービスが増えましたが、依然として多くのサービスはIPv4接続を前提に構築されています。そのためIPv4に問題があると「インターネットが半分だけ壊れている」状態になり、原因の見当がつきにくくなります。まずはこの現象を正しく見分けるところから始めましょう。
よくある症状と見分け方
IPv4だけが繋がらない状態では、次のような症状が同時に発生します。当てはまる項目が多いほど、IPv4側の問題である可能性が高いと考えてください。
| 確認すること | IPv4だけ不通のときの症状 |
|---|---|
| 一部のサイトだけ開ける | IPv6対応サイトは表示できるが、非対応サイトは開けない |
| エラーの出方 | 「接続できません」「サーバーが見つかりません」が特定サイトでのみ出る |
| メールの送受信 | 送受信ができない、または特定のアカウントだけ失敗する |
| 業務システム・VPN | 社内システムやVPNに接続できない |
| 接続状態の表示 | OSのネットワーク状態でIPv4だけ「インターネットアクセスなし」と表示される |
見分けるポイントは、IPv6に対応しているサイトにはアクセスできるのに、IPv6に対応していないサイトには接続できないという偏りがあることです。すべてのサイトが開けないのであれば、それは回線そのものが切れているか、Wi-Fiや配線の問題であり、原因の探し方が変わります。
Windowsでは「設定」から「ネットワークとインターネット」を開き、利用中の接続の詳細を確認します。IPv4が「インターネットアクセスなし」と表示されていればIPv4側の問題です。macOSでは「システム設定」のネットワーク画面でIPv4アドレスの割り当て状況を確認できます。
IPv4とIPv6の違いを簡単におさらい
IPv4とIPv6は、どちらもインターネット上で通信を行うためのプロトコル(通信規約)です。両者の性質の違いを押さえておくと、なぜ片方だけが繋がらなくなるのかが理解しやすくなります。
| 項目 | IPv4 | IPv6 |
|---|---|---|
| 策定年 | 1981年 | 1998年 |
| アドレス長 | 32ビット | 128ビット |
| 利用できるアドレス数 | 約43億個 | 約340澗個(事実上ほぼ無制限) |
| 主な接続方式 | PPPoE | IPoE |
| 混雑の影響 | 網終端装置を経由するため受けやすい | 網終端装置を経由せず受けにくい |
IPv4は従来型のプロトコルで、アドレスの総数に限りがあり世界的に枯渇した状態が続いています。標準的な接続方式であるPPPoEは網終端装置(NTE)を経由するため、利用者が集中する時間帯には混雑しやすいという特性があります。一方のIPv6は、総務省の資料でもIPv4の約43億個に対して約340澗個という桁違いのアドレス空間が使えると説明されており、通信経路が短く混雑の影響を受けにくいIPoE接続を利用できます。
現在のインターネット環境では、IPv4とIPv6の両方が併用されています。この「両方を同時に使う」構成をデュアルスタックと呼びますが、どちらか一方に問題が起きても、もう一方が動いている限り接続自体は生きているように見えてしまいます。これが、原因の切り分けを難しくしている最大の理由です。
原因を特定する切り分け手順
原因が複数考えられるトラブルでは、思いついた対処から手当たり次第に試すと、かえって状況が悪化することがあります。設定を戻せなくなったり、本来関係のない箇所を変更してしまったりするためです。ここでは、原因を絞り込むための3ステップを紹介します。所要時間は全体で10分程度です。
手順1 影響範囲を確認する
最初に確認すべきは「どこまでが繋がらないのか」です。影響範囲がわかれば、原因が存在しうる場所が一気に絞り込めます。次の3点を確認してください。
・同じネットワークにある他の端末でも同じ症状が出るか
・有線接続と無線接続の両方で症状が出るか
・スマートフォンをモバイル回線(Wi-Fiをオフにした状態)にすると正常に見られるか
すべての端末で同じ症状が出るなら、原因はルーターより上流、つまりルーターの設定かプロバイダ側にあります。一方、特定の1台だけに症状が出る場合は、その端末側の設定やソフトウェアが原因である可能性が高くなります。端末が1台だけ繋がらないケースの切り分けは、次の記事で詳しく解説しています。
Wi-Fiが一台だけ繋がらない原因とは?簡単に解決する方法を解説
またモバイル回線で正常に表示できるサイトが、社内ネットワークからは開けないという結果になれば、サイト側の障害ではなく自社側の問題であることが確定します。切り分けの最初としては非常に有効な確認方法です。
手順2 IPv4通信の状態を確認する
次に、IPv4の通信が実際にどこで止まっているのかを確認します。Windowsであればコマンドプロンプトから確認するのが確実です。
・ipconfig を実行し、IPv4アドレスが割り当てられているかを確認する
・ping 8.8.8.8 を実行し、IPアドレス直接での到達性を確認する
・ping www.example.com を実行し、名前解決を含めた到達性を確認する
IPv4アドレスが割り当てられていない場合は、ルーターからのアドレス配布か、端末側のネットワーク設定に問題があります。IPアドレス指定のpingは通るのにドメイン名を指定したpingが失敗する場合は、通信経路そのものは生きていて、名前解決つまりDNSに問題があると判断できます。どちらも通らない場合は、ルーターより上流の問題を疑います。
手順3 契約している接続方式を確認する
見落とされがちですが、自社や自宅がどの接続方式を使っているのかを把握しておくことは重要です。同じ症状でも、PPPoEを使っているのか、IPv4 over IPv6を使っているのかで原因も対処も変わります。
確認方法は、プロバイダから届いた契約書類や会員ページを見るのが最も確実です。契約書類に「v6プラス」「transix」「OCNバーチャルコネクト」「IPv6高速ハイブリッド」といった名称があれば、IPv4 over IPv6を利用していることになります。逆に、接続用のIDとパスワードをルーターに入力して使っている場合は、PPPoE接続である可能性が高いといえます。
特に法人環境では、契約書類の内容と実際の機器構成が食い違っていることがあります。書類上の契約と現物の設定を両方確認しておいてください。
IPv4が繋がらずIPv6は繋がる主な原因
ここからは、IPv4だけが繋がらなくなる代表的な原因を7つに整理して解説します。切り分け手順で絞り込んだ結果と照らし合わせながら読み進めてください。
二重ルーター(ルーター機能の競合)
IPv4だけが繋がらない原因として最も多いのが、二重ルーター状態です。二重ルーターとは、ネットワーク内に2台以上のルーターが存在し、それぞれがルーター機能を有効にしている状態を指します。
光回線を利用している場合、プロバイダから提供されるONU(光回線終端装置)やホームゲートウェイにルーター機能が内蔵されていることがあります。この状態で市販のWi-Fiルーターをルーターモードのまま接続すると、二重ルーター状態になります。
IPv6はルーターでのアドレス変換を伴わずに通信できるため二重ルーターの影響を受けにくいのに対し、IPv4は各ルーターでNAT(ネットワークアドレス変換)処理が行われるため、通信に問題が発生しやすくなります。「IPv6だけ繋がる」という症状が出やすい理由がここにあります。
なお、ホームゲートウェイ側でIPv4 over IPv6の機能が有効になっている場合、その配下に置いた市販ルーターの同機能は動作しません。ルーターを追加したり買い替えたりした直後に症状が出たのであれば、この原因を最初に疑ってください。
IPv4 over IPv6の設定不備
IPv4 over IPv6を契約している場合、ルーターの設定が正しく行われていないとIPv4サイトにアクセスできなくなります。IPv4 over IPv6は、IPv6ネットワーク上でIPv4通信を行うための技術で、利用するには対応したルーターと正しい接続方式の設定が必要です。
よくある設定ミスとしては、次のようなケースがあります。
・ルーターが契約中のIPv4 over IPv6サービスに対応していない
・ルーターの動作モード設定が契約内容と合っていない
・以前のPPPoE設定情報が残っていて経路が競合している
・ファームウェアが古く、サービス側の仕様変更に対応できていない
特に多いのが、PPPoEからIPv4 over IPv6へ切り替えた際に、古いPPPoE設定を削除し忘れているケースです。設定が二重に残っていると経路が競合し、IPv4通信だけが不安定になります。
プロバイダ側の障害・メンテナンス
インターネットサービスプロバイダ側で障害が発生している場合や、メンテナンス作業中の場合も、IPv4だけが繋がらなくなることがあります。IPv4とIPv6は通信経路が異なるため、IPv4網にトラブルが発生してもIPv6は問題なく使えるケースがあるためです。
特に深夜から早朝にかけてのメンテナンス時や、地域単位の障害発生時にこの現象が起こりやすくなります。プロバイダ側の問題である場合、利用者側の設定変更では解決できません。公式サイトや公式SNSで障害情報を確認し、復旧を待つことになります。
業務への影響が大きい環境では、この「利用者側では何もできない時間」をどう乗り切るかが課題になります。後述するバックアップ回線が有効な場面です。
DNS設定の不具合
DNS(Domain Name System)は、Webサイトのドメイン名をIPアドレスに変換する役割を持っています。IPv4用のDNSサーバーに問題があると、IPv4での名前解決ができず、接続が失敗します。
一方で、IPv6用のDNSレコード(AAAAレコード)が正常に応答していれば、IPv6対応サイトにはアクセスできる状態になります。この非対称性が「一部のサイトだけ開ける」という症状を生みます。プロバイダが提供するDNSサーバーに障害が発生している場合に起こりやすい現象です。
切り分け手順2で、IPアドレス指定のpingは通るのにドメイン名指定のpingが失敗した場合は、この原因である可能性が高いと考えてよいでしょう。
端末側のネットワーク設定ミス
パソコンやスマートフォンなど、端末側のネットワーク設定に問題があるケースも少なくありません。影響範囲の確認で「1台だけ症状が出る」となった場合は、この原因が濃厚です。
具体的には、OSのネットワーク設定でIPv4の機能が無効化されていたり、誤ったIPアドレスやサブネットマスクが手動で設定されていたりすると、IPv4通信ができなくなります。またVPNソフトやセキュリティソフトがIPv4通信をブロックしているケースもあります。
業務用パソコンでは資産管理ソフトやセキュリティ製品がネットワーク設定を管理していることもあります。特定が難しい場合は情報システム部門に確認するほうが早く解決します。
回線の混雑(PPPoE接続の限界)
従来のIPv4接続であるPPPoE方式を利用している場合、回線が混雑する時間帯にIPv4だけが繋がりにくくなることがあります。完全に不通になるわけではなく、極端に遅くなって実質的に使えない、という形で症状が出るのが特徴です。
PPPoE接続では網終端装置(NTE)を経由してインターネットに接続するため、夜間や休日など利用者が多い時間帯にはNTEがボトルネックとなり、通信速度が低下したり接続が不安定になったりします。一方、IPv6のIPoE接続ではNTEを経由しないため、混雑の影響を受けにくくなっています。
毎日決まった時間帯にだけ症状が出る場合はこの原因を疑ってください。機器の故障ではないため再起動では改善せず、IPv4 over IPv6への切り替えが根本的な解決策になります。
MAP-Eのポート制限で一部だけ繋がらない
IPv4 over IPv6のうち、MAP-Eと呼ばれる方式を採用しているサービスでは、1つのグローバルIPv4アドレスを複数の利用者で共有します。この仕組み上、1契約あたりに割り当てられるポート番号の範囲が限定されます。
ルーターメーカーの技術情報でも、MAP-Eでは使用できるポート番号が限定されるため特定のポート番号を使うアプリケーションは動作せず、LAN側にサーバーを構築して外部から接続することもできないと明記されています。つまり、Webサイトの閲覧やメールは正常なのに、次のような用途だけが失敗するという状態が起こり得ます。
・VPN接続が確立できない、または途中で切れる
・オンラインゲームや一部のビデオ会議で通信が確立しない
・社内サーバーやネットワークカメラを外部に公開できない
・特定の業務システムだけがタイムアウトする
この場合、IPv4通信そのものは動いているため、再起動やDNS変更をいくら試しても改善しません。仕様上の制約なので、固定IPオプションの利用やPPPoE接続の併用など、別の手段を検討することになります。VPNが繋がらないケースの切り分けについては、次の記事も参考にしてください。
VPNが繋がらないときの原因と対処法。切り分け手順から再発防止策まで解説
IPv4接続トラブルの対処法
原因の見当がついたら、対応する対処法を実行します。まずは原因と対処の対応関係を一覧で確認してください。難易度と所要時間の目安も併記しています。
| 原因 | 対処法 | 難易度 | 所要時間 |
|---|---|---|---|
| 二重ルーター | 市販ルーターをブリッジモードに変更 | 低 | 約10分 |
| IPv4 over IPv6の設定不備 | 動作モードとファームウェアを確認 | 中 | 約20分 |
| プロバイダ側の障害 | 障害情報を確認し復旧を待つ | 低 | 確認は5分 |
| DNSの不具合 | パブリックDNSを手動設定 | 低 | 約5分 |
| 端末側の設定ミス | ネットワーク設定を見直す | 中 | 約15分 |
| 回線の混雑 | IPv4 over IPv6への切り替えを検討 | 高 | 数日〜 |
| MAP-Eのポート制限 | 固定IPオプションやPPPoE併用を検討 | 高 | 数日〜 |
難易度が低いものから順に試すのが基本ですが、切り分け手順で原因が特定できている場合は、該当する対処法から始めて構いません。
ルーター・モデムの再起動
まず最初に試すべき対処法は、ルーターとモデム(ONU)の再起動です。IPアドレスの再取得やルーティングテーブルのリセットが行われ、一時的な問題であればこれだけで解消します。
手順として重要なのは順番です。電源を入れる順番を間違えると、ルーターが正しくアドレスを取得できないことがあります。
・ルーターとモデムの電源を切る
・30秒から1分程度待つ
・モデムの電源を入れ、ランプが安定するまで2〜3分待つ
・ルーターの電源を入れ、同じく2〜3分待つ
・パソコンやスマートフォンで接続を確認する
なお、再起動しても数日で同じ症状が再発する場合は、一時的な不具合ではなく機器の劣化や設定の競合が背景にあります。その場合は次以降の対処に進んでください。
ルーターをブリッジモードに変更する
二重ルーター状態が原因の場合は、市販のWi-Fiルーターをブリッジモード(アクセスポイントモード)に変更することで解決します。
ブリッジモードに変更すると、Wi-Fiルーターはルーター機能を停止し、単純なWi-Fiアクセスポイントとして動作します。これによりONUやホームゲートウェイのルーター機能のみが有効になり、二重ルーター状態が解消されます。
切り替え方法は機種によって異なります。多くの場合、ルーター本体にあるスイッチを「BR」や「AP」に切り替えるか、管理画面から動作モードを変更します。切り替え後はルーターの管理画面のアドレスも変わることがあるため、事前にマニュアルで確認しておくと安心です。
ただしブリッジモードにすると、市販ルーター側のセキュリティ機能や帯域制御が使えなくなる場合があります。それらを使っている環境では、代わりにホームゲートウェイ側のルーター機能を無効化する方法も検討してください。
IPv4 over IPv6サービスの設定を確認する
IPv4 over IPv6サービスを契約している場合は、ルーターの設定が契約内容と合っているかを確認します。確認すべきポイントは次のとおりです。
・ルーターが契約中のサービスに対応した機種か
・動作モードが契約中のサービスに合わせて設定されているか
・古いPPPoE設定が残っていないか、残っていれば削除する
・ファームウェアが最新版になっているか
サービス名称や設定方法はプロバイダごとに異なります。同じMAP-E方式でも、ルーター側で選ぶ設定項目の名前が違うことは珍しくありません。必ず契約しているプロバイダのサポートページで、対応機種と設定手順を確認してください。
DNSサーバーを手動で設定する
プロバイダのDNSサーバーに問題がある場合は、パブリックDNSサーバーを手動で設定することで解決できることがあります。代表的なパブリックDNSサーバーは次のとおりです。
| サービス名 | 優先DNS | 代替DNS |
|---|---|---|
| Google Public DNS | 8.8.8.8 | 8.8.4.4 |
| Cloudflare DNS | 1.1.1.1 | 1.0.0.1 |
Windowsで変更する場合は、コントロールパネルからネットワークと共有センターを開き、アダプターの設定の変更に進みます。使用しているネットワークアダプターのプロパティを開き、インターネットプロトコルバージョン4(TCP/IPv4)を選択して、優先DNSサーバーと代替DNSサーバーを入力します。
なお、法人環境では社内DNSサーバーを経由する運用になっていることが多く、その場合は端末側の設定を勝手に変更すると社内システムに接続できなくなる可能性があります。企業ネットワークでは、必ず情報システム部門に確認してから実施してください。
PCやスマホのネットワーク設定を見直す
端末側の設定に問題がある場合は、次の点を確認してください。
・インターネットプロトコルバージョン4(TCP/IPv4)が有効になっているか
・IPアドレスの取得方法が自動取得になっているか
・VPNソフトを一時的に無効にして接続できるか
・セキュリティソフトのファイアウォール設定でIPv4通信が制限されていないか
・ネットワークアダプターのドライバーが最新か
Windowsの場合は、コマンドプロンプトを管理者権限で開き、ipconfig /release と ipconfig /renew を順に実行してIPアドレスを再取得する方法も有効です。それでも改善しない場合は netsh winsock reset でネットワーク設定をリセットする手もありますが、実行後は再起動が必要になります。
これらの操作は端末のネットワーク設定を初期状態に戻すものです。固定IPアドレスやプロキシを設定している端末では、リセット後に再設定が必要になるため、事前に現在の設定を控えておいてください。
プロバイダの障害情報を確認する
ここまでの対処法を試しても解決しない場合は、プロバイダ側で障害が発生している可能性があります。次の順番で確認してください。
・プロバイダの公式サイトで障害情報・メンテナンス情報を確認する
・プロバイダの公式SNSアカウントで最新情報を確認する
・同じ地域の利用者が同様の症状を報告していないか調べる
・上記で情報が見つからない場合はサポート窓口に問い合わせる
問い合わせる際は、症状が出始めた日時、影響を受けている端末の範囲、すでに試した対処、pingの結果を整理しておくと対応が早くなります。
プロバイダ側の障害であれば復旧を待つしかありません。緊急でインターネット接続が必要な場合は、スマートフォンのテザリングなどモバイル回線を一時的に利用することを検討してください。
IPv4 over IPv6とは?仕組みと導入時の注意点
IPv4接続のトラブル、特に混雑による速度低下を根本的に解決する方法として、IPv4 over IPv6サービスの導入があります。ただし万能ではなく、導入前に知っておくべき制約もあります。ここでは仕組みと注意点の両方を解説します。
IPv4 over IPv6の仕組み
IPv4 over IPv6は、IPv6ネットワーク上でIPv4通信を行うための技術です。IPv4のデータパケットをIPv6パケットにカプセル化して送信し、宛先で元のIPv4パケットに戻すという仕組みで動作します。
従来のIPv4接続であるPPPoE方式では網終端装置を経由するため混雑の影響を受けやすいのに対し、IPv4 over IPv6ではIPv6のIPoE接続を利用するため、網終端装置を経由せずに通信できます。これにより、混雑しやすい時間帯でも安定した通信速度を維持しやすくなります。
実装方式は大きく分けてMAP-EとDS-Liteの2種類があります。どちらもIPv4アドレスを複数の利用者で共有する点は共通ですが、アドレス変換を行う場所が異なります。利用者が方式を選べるわけではなく、契約するサービスによって決まります。
代表的なIPv4 over IPv6サービス
国内で提供されている主なサービスは次のとおりです。提供事業者の社名は変更されている場合があるため、契約時の名称と現在の名称が異なることがあります。
| サービス名 | 提供事業者 | 方式 | 備考 |
|---|---|---|---|
| v6プラス | 株式会社JPIX | MAP-E | 旧JPNE。2023年1月にJPIXと合併し事業を継承 |
| transix | インターネットマルチフィード株式会社 | DS-Lite | DS-Lite接続は標準で提供。アドレス共有型 |
| OCNバーチャルコネクト | NTTドコモビジネス株式会社 | MAP-E | 旧NTTコミュニケーションズ。2025年7月に社名変更 |
| IPv6高速ハイブリッド | ソフトバンク株式会社 | 独自方式 | 光BBユニットのレンタル等の申し込みが必要 |
本記事に記載した各サービスの内容は2026年7月時点で各社公式サイトを確認したものです。提供条件は変更される場合があるため、契約前には必ず最新の公式情報をご確認ください。
導入前に知っておきたい3つの制約
IPv4 over IPv6は速度面のメリットが大きい一方、従来のPPPoEにはなかった制約があります。導入後に「こんなはずではなかった」とならないよう、次の3点は事前に確認しておいてください。
1つめは、利用できるポートが限定されることです。1つのグローバルIPv4アドレスを複数の利用者で共有するため、サーバーやネットワークカメラの外部公開、一部のVPNなど外部からの着信を受ける用途は利用できません。
2つめは、固定IPアドレスが基本的に使えないことです。アドレス共有型のサービスでは、そもそも自社専用のグローバルIPアドレスが割り当てられません。取引先からIPアドレスでのアクセス制限を求められている場合や、自社サーバーを公開している場合は、固定IPのオプションを別途契約するか、方式そのものを見直す必要があります。固定IPの考え方については次の記事で詳しく解説しています。
固定IPとは?動的IPとの違いやメリット・デメリット、IoT・遠隔監視での使い方を解説
3つめは、対応ルーターが必要になることです。手持ちのルーターがそのまま使えるとは限らず、方式ごとに対応機種が決まっています。契約変更にあわせて機器の買い替えが必要になるケースは珍しくありません。
対応ルーターの選び方
IPv4 over IPv6を利用するには、対応したルーターが必要です。ルーターを選ぶ際には次のポイントを確認してください。
・契約しているIPv4 over IPv6サービスに正式対応しているか
・複数の方式に対応した自動判別機能があるか
・Wi-Fi規格が用途に見合っているか
・有線LANポートの速度が契約回線の速度に見合っているか
・ファームウェアの更新頻度とサポート期間
特に重要なのは、メーカーが公開している対応機種リストに掲載されているかどうかです。「IPv6対応」と書かれていても、それはIPv6のIPoE接続に対応しているという意味であって、契約中のIPv4 over IPv6サービスに対応しているとは限りません。ここを混同すると、機器を買い替えても症状が改善しないという事態になります。
プロバイダによっては対応ルーターをレンタルしている場合もあります。設定や保守の手間を含めると、法人環境ではレンタルのほうが結果的に安く済むこともあります。
法人ネットワークで押さえておきたい視点
ここまでは症状の解消を中心に解説してきましたが、業務で利用するネットワークでは「復旧させる」だけでなく「業務を止めない」という視点が欠かせません。最後に、法人環境で押さえておきたい3つの観点を紹介します。
IoT機器・監視カメラへの影響
IPv4接続のトラブルで見落とされやすいのが、人が操作していない機器への影響です。ネットワークカメラ、センサー、デジタルサイネージ、複合機、勤怠管理端末などは、誰かがブラウザを開いて気づくわけではないため、通信が止まっていても発見が遅れます。
特に映像をクラウドへ送信している監視カメラでは、通信が止まっている間の映像が記録されていないという事態になりかねません。IPv4だけが不通という状態は接続ランプ上は正常に見えることも多く、現地で確認しても異常に気づけないことがあります。
対策としては、機器ごとの死活監視を設定し、一定時間データが届かない場合に通知が飛ぶようにしておくことが有効です。トラブルの発生自体を防ぐことはできませんが、発見までの時間は大きく短縮できます。
影響範囲の把握と復旧手順の整備
同じ回線トラブルでも、影響を受ける業務が事前に整理されているかどうかで、対応のスピードは大きく変わります。最低限、次の内容は文書化しておくことをおすすめします。
・拠点ごとの回線の契約先・接続方式・契約IDの一覧
・ルーターやホームゲートウェイの型番と設置場所、管理画面のアクセス方法
・その回線に依存している業務システムと機器の一覧
・プロバイダのサポート窓口と、障害情報の確認先
・一次切り分けの手順と、誰がどこまで対応してよいかの基準
特に見落とされやすいのが、機器の管理画面のパスワードです。導入時のまま誰も把握しておらず、いざ設定を確認しようとしてログインできない、というのは実際によくあるトラブルです。
複数拠点を持つ企業では、拠点ごとに契約プロバイダや接続方式が異なることも多く、同じ症状でも原因が違う場合があります。情報は拠点単位で整理してください。
バックアップ回線による冗長化
プロバイダ側の障害は利用者側では解決できません。復旧を待つ間も業務を止められない環境では、あらかじめ別系統の回線を用意しておく冗長化が現実的な対策になります。
冗長化にはいくつかの考え方があります。固定回線を2本引く方法は安定性が高い一方でコストがかかり、同じ設備を共用していると同時に停止するリスクも残ります。これに対し、モバイル回線をバックアップとして併用する方法は、経路が完全に分かれるため障害要因が重なりにくく、比較的低コストで導入できます。
モバイル回線をバックアップに使う場合は、平常時は待機し、固定回線の障害を検知したら自動的に切り替わる構成にしておくと、担当者が現地にいなくても業務を継続できます。機器の選び方については次の記事も参考にしてください。
どこまで冗長化するかは業務影響とコストのバランス次第です。全拠点を二重化する必要はなく、止まると売上や安全に直結する拠点から検討するのが現実的です。
まとめ
IPv4が繋がらないのにIPv6だけが繋がる現象は、原因が複数あるうえに「半分は動いている」ため発見も特定も難しいトラブルです。本記事で解説した内容を整理すると次のようになります。
| 原因 | 対処の方向性 |
|---|---|
| 二重ルーター | 市販ルーターをブリッジモードに変更する |
| IPv4 over IPv6の設定不備 | 動作モードと古いPPPoE設定、ファームウェアを確認する |
| プロバイダ側の障害 | 障害情報を確認し、復旧を待つ |
| DNSの不具合 | パブリックDNSサーバーを手動で設定する |
| 端末側の設定ミス | IPv4の有効化とIPアドレス取得設定を見直す |
| 回線の混雑 | IPv4 over IPv6サービスの導入を検討する |
| MAP-Eのポート制限 | 固定IPオプションや別方式への変更を検討する |
手順としては、まずルーターとモデムの再起動を試し、解決しなければ影響範囲を確認して原因を絞り込みます。すべての端末で症状が出るならルーターより上流、1台だけならその端末、という切り分けが出発点です。
根本的な解決策としてはIPv4 over IPv6の導入が有効ですが、ポートが限定される、固定IPが使えないといった制約もあります。自社の使い方と照らして判断してください。
そして業務で利用するネットワークでは、復旧させることと同じくらい、止まったときに気づける仕組みと、止まっても業務を続けられる構成が重要になります。トラブルをきっかけに、機器と契約の棚卸し、死活監視、バックアップ回線の要否まで見直しておくと、次に同じ症状が起きたときの被害を大きく減らせます。